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科学的根拠:介護施設向け

認知症の不穏行動の軽減、高齢者の気分改善、
非薬物的アプローチとしての自然映像の可能性。

29研究・733名
メタ分析で認知症の不穏行動が有意に軽減
屋内 > 屋外
映像など屋内介入の効果量が屋外を上回る
10分で心拍数低下
自然映像の視聴で平均8.5拍/分改善
118名のRCT
自然映像が高齢者の語りと対話を引き出す
音量ゼロでも有効
視覚刺激のみでリラクゼーション反応を確認

認知症ケアにおける自然映像の効果

認知症の行動・心理症状(BPSD)の軽減に対する自然映像の有効性を検証した研究です。

メタ分析(2025年)

認知症高齢者の不穏行動に対する自然介入の効果:29研究・733名のメタ分析

Choe, K. et al. (2025) — Healthcare (MDPI), 13(14), 1727
対象: 長期介護施設に入居する65歳以上の認知症患者、29研究・733名を統合
MEDLINE、PsycINFO、Scopus、Web of Scienceの4データベースから、自然要素を用いた介入(園芸、自然映像の視聴、屋外活動等)が認知症患者の不穏行動に与える効果を系統的にレビューし、メタ分析を実施。

自然を活用した介入は、認知症患者の不穏行動(agitation)を有意に低減する効果があった(Hedges' g = -0.86、p < 0.001)。
サブグループ解析の結果:
介入環境(屋内 vs 屋外):屋内介入(g = -1.00)は屋外介入(g = -0.76)を統計的に有意に上回った(p = 0.040)。屋外環境では手すりの欠如・天候変動などが効果を減弱させる要因として報告されている。
体験の種類(間接体験 vs 直接体験):映像・写真・香りなどの間接体験と、植物・動物・自然光との直接体験の間に、効果量の有意差はなかった。→ 外出が困難な入居者にも、映像による自然体験が直接体験と同等の効果をもたらす可能性を示唆。
社会的交流を伴う介入は個別介入より効果量が大きかった(g = -0.99 vs g = -0.73、p = 0.028)。

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認知症ケア

メモリーケア入居者14名への自然映像の効果:心拍数の有意な低下と快感情の改善傾向

Reynolds, L. et al. (2018) — Journal of Housing for the Elderly, 32(2), 176-193
対象: 米国のメモリーケア施設、中等度〜重度認知症の入居者14名
壁掛けテレビで1時間の自然映像(滝と山の遠景)を視聴する条件と、同世代の古い映画を視聴する条件を、交互に3回ずつ実施。心拍数(ストレス指標)、Observed Emotion Rating Scale(感情)、Agitated Behavior Scale(不穏行動)を前後で測定。

わずか10分の自然映像視聴で、心拍数が平均8.5拍/分低下(=生理的ストレスの軽減)。映画条件との比較で統計的に有意。
不安の減少や快感情(pleasure)の増加傾向も観察された(※感情指標は改善傾向を示したが、統計的有意差には達していない)。
古い映画と比較して、自然映像の方が生理的な改善効果が大きかった。
VRゴーグルは使用せず、通常の壁掛けテレビでの視聴

The Center for Health Design で詳細を確認 →
認知症ケア映像

認知症フレンドリー映像がもたらす「安らぎ」と「対話の促進」

Wong, K.L.Y., Hung, L. et al. (2025) — DIGITAL HEALTH, 11, 20552076251357490
対象: 中等度〜重度認知症の介護施設入居者と介護スタッフ
介護施設で認知症フレンドリーな映像コンテンツ(自然映像を含む)を使用した際の心理社会的影響を、入居者の行動観察とスタッフへのインタビューを通じて質的に分析。

映像視聴により入居者に安らぎ(comfort)と不穏行動の軽減が観察された。
入居者間、および入居者とスタッフの間の対話・交流(engagement and interaction)が促進された。
1990〜2000年代には「受動的で効果が限定的」とされていた映像の活用が、近年の研究では肯定的な評価に転換している。

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レビュー(非薬物的介入)

自然映像は「夕暮れ症候群(サンダウニング)」への非薬物的介入として有望

Rados, R., Kim, J., Kil, N., Kono, S. & Kensinger, K. (2021) — Journal of Long-Term Care, pp. 294–302
レビュー論文
認知症患者の最大66%が経験するとされる夕暮れ症候群(午後〜夜間に不穏・不安・攻撃性が増悪する現象)に対する、非薬物的な介入としての自然映像・音楽の可能性をレビュー。

自然映像の視聴は、認知症入居者の気分を改善し不穏行動を軽減することが複数の研究で示されている。
抗精神病薬の副作用(糖尿病発症、体重増加、歩行障害による転倒、脳卒中、認知機能の更なる悪化)が深刻な問題であるため、副作用のない非薬物的アプローチとしての自然映像の価値が強調されている。

Journal of Long-Term Care で論文を確認 →
探索的研究(n=9〜13)

好みの自然画像で認知症入居者のエンゲージメントが改善

Eggert, J. et al. (2015) — SAGE Open Medicine, 3, 2050312115602579
対象: 米国サウスカロライナ州のアシステッドリビング施設メモリーケアユニット、重度認知症患者(MMSE 10未満)
参加者ごとに好みの自然画像(8.5×11インチの印刷画像)を選定し、週1回90分の個別セッションで4週間提示した。エンゲージメント(IDEAS尺度)を各セッションの前後で測定。言語的非攻撃性行動をCMAI(Cohen-Mansfield Agitation Inventory)で評価した。

エンゲージメント(IDEAS尺度)は自然画像セッションの4週すべてで前後に改善がみられた(例:第1週 26.8→28.3)。参加者は画像をきっかけに幼少期の記憶を語ったり、スタッフに画像を見せて会話を始めるなど、自発的な交流が観察された
言語的非攻撃性行動(CMAI)は改善がみられた週とみられなかった週があり、一貫した結果は得られなかった。

対照群およびランダム割付のない探索的研究です。サンプルサイズが小さく(自然画像介入9名、音楽介入6名)、統計的有意差の検定は行われていません(記述統計による傾向の報告)。介入は印刷された自然画像であり、デジタルスクリーン表示ではありません。IDEAS尺度はこの研究で初めて短期間使用されたもので、信頼性は未確立です。
PMC で論文全文を確認 →

高齢者の気分改善・社会的つながり

認知症の有無を問わず、高齢者全般に対する自然映像の心理的効果を検証した研究です。

高齢者の気分改善

高齢者で確認:仮想自然体験によるポジティブ感情の有意な改善

Chan, S.H. et al. (2021) — Virtual Reality(Springer)
対象: Study 1 = 若年成人、Study 2 = 高齢者(シニアセンター利用者)
VRによる仮想の森林散策体験が気分に与える影響を、若年成人と高齢者の2つの独立した研究で検証。高齢者向けの研究では、シニアセンターの利用者が参加。※本研究はVRヘッドセットを使用しているが、2Dモニタでも同等のストレス低減効果が得られることはSuseno (2023) で確認されている。

高齢者: ポジティブ感情が有意に改善。その効果は「自然とのつながり感覚(nature connectedness)」の向上を介して生じることが確認された。
著者らは、介護施設やケアホームでの導入が実用的な解決策になると結論。

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フレイル高齢者

フレイル高齢者のデジタル自然体験:社会的つながりと穏やかさの向上

van Houwelingen-Snippe, J., Ben Allouch, S. & van Rompay, T.J.L. (2023) — DIGITAL HEALTH, 9, 20552076231218504
混合研究法
対象: 移動に制限のあるフレイル高齢者
外出が困難なフレイル(虚弱)高齢者に対し、デジタル自然コンテンツ(映像・画像)を提供した際の効果を検証。特に好まれたのは「海」や「水辺の広い景色」であった。

デジタル自然体験後に社会的つながり感(social connectedness)のスコアが有意に上昇
穏やかさ(peacefulness)が有意に向上
「畏怖(awe)を喚起する壮大な自然シーン」を1日わずか数分見るだけでも、気分の改善とポジティブ感情の誘発が確認されている。

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語り・対話の誘発

自然風景の動画が高齢者の語りと社会的交流意欲を引き出す

Otten, K. et al. (2024) — DIGITAL HEALTH, 10, 20552076241261886
対象: 60歳以上・n=118名(RCT・2×2ファクトリアルデザイン)
孤独感の軽減を目的に、謎めきと開放感を変えた自然風景動画4種をランダムに提示。視聴後に湧き起こった「語り(small stories)」の構造・内容・社会的意図を分析した。University of Twente(オランダ)による。

自然動画の視聴により、高齢者は記憶・意味づけ・将来への思いを含む語りを有意に多く生成した。参加者からは「昔の記憶や大切な思い出が浮かんでくる」「誰かに話したくなる」といった発言が記録された。
著者らは、自然映像を社会的孤立への介入ツールとして有望と結論。

※本研究はオンライン調査形式であり、介護施設での直接介入を実証したものではありません。
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基盤となるメタ分析

自然映像が人の心身に与える効果を大規模に検証した基盤的研究です。※Chen (2025) は健常成人を対象としており、介護施設入居者への効果を直接実証したものではありませんが、自然映像の有効性の方向性を示す参考データとして掲載しています。

メタ分析(2025年)

24研究・1,471名を統合:仮想自然環境の不安・ストレス・うつへの効果

Chen, L. et al. (2025) — npj Digital Medicine (Nature系列)
対象: 健常成人(24研究・1,471名を統合)
健康な成人を対象に、仮想的な自然環境への接触(2Dモニタ・360°映像・VRを含む)が不安・ストレス・うつに与える影響を包括的に評価した系統的レビューおよびメタ分析。介護施設入居者への効果を直接実証したものではありませんが、自然映像の有効性の方向性を示す参考データとして掲載しています。

不安: SMD = 0.82, p < 0.001 — 大きな効果
ストレス: SMD = 0.577, p = 0.003 — 中程度の効果
うつ: SMD = 0.621, p < 0.001 — 中程度の効果

Nature で論文を確認 →
2D vs VR 比較

通常のモニタ映像でもVRと同等のストレス低減効果

Suseno, B. & Hastjarjo, T. D. (2023) — Frontiers in Psychology
同一の自然環境映像をVRヘッドセットと2Dモニタで視聴させ、ストレス低減効果を比較した無作為化比較試験(n=62)。VRゴーグルを装着できない認知症の方や高齢者への適用可能性を検討するうえで重要な知見です。

心拍数・主観的ストレスの低減において、2Dモニタ映像とVRの間に有意差なし。VRゴーグルを装着できない認知症の方や高齢者にとって、壁掛けテレビでの視聴がはるかに実用的。

PMC で論文を確認 →

これらの研究の詳細な考察(実験手法・限界・クリニックへの応用)はクリニック向け科学的根拠ページに掲載しています。

理論的基盤

自然映像がなぜ人間の心身に作用するのか。その背景にある3つの主要理論です。

ストレス低減理論(SRT)

自然環境の視覚パターンは、進化的に獲得された「安全信号」として脳に認識され、副交感神経を活性化させる。認知機能が低下した状態でも、この反応は保たれる。

Roger Ulrich, 1991

注意回復理論(ART)

自然環境に特有の「ソフト・ファシネーション」が、指向性注意を休息させる。認知症の方にとっても、穏やかな自然映像は過剰な刺激にならない「ちょうどいい」環境を提供する。

Kaplan & Kaplan, 1989

バイオフィリア仮説

人間には自然環境とのつながりを求める生得的な傾向がある。外出が困難な入居者にとって、映像による自然体験はこの根源的な欲求を満たす手段となる。

E.O. Wilson, 1984 / 宮崎良文, 千葉大学

これらの研究と風景帖の対応

上記の研究は、風景帖のサービス設計を直接的に裏付けています。

なぜ介護施設に「自然映像」なのか

29研究のメタ分析(Choe 2025)で、映像・写真などの間接体験と屋外での直接体験の間に効果量の有意差がないことが確認されました。さらに介入環境のサブグループ解析では、屋内介入(g=-1.00)の方が屋外介入(g=-0.76)よりも効果量が統計的に高い結果が示されています(p = 0.040)。外出が困難な入居者にも、モニタ越しの自然が直接体験と同等以上の鎮静効果をもたらす可能性があります。

なぜ「VRではなくモニタ」なのか

Reynolds (2018) は通常の壁掛けテレビで認知症入居者への効果を実証しています。VRゴーグルを装着できない認知症の方や高齢者にとって、共用スペースのテレビでの視聴がはるかに実用的です。

なぜ「テレビの代わり」なのか

チャンネル争いの原因にもなる地上波テレビに代わり、誰にとっても不快にならない自然映像を流すことで、共用スペースの環境が改善されます。不穏行動の軽減はスタッフの負担軽減にも直結します。

スタッフ自身への効果はあるか

高齢者医療施設の職員13名を対象とした交差実験(高山ら 2020)では、休憩室への自然映像(木漏れ日・2D投影)が、通常休憩と比べてストレス指標(唾液アミラーゼ活性)を有意に低下させ、緊張・不安感の改善と職務満足度の向上傾向をもたらしました。入居者の穏やかさがスタッフの負担を減らす間接効果に加え、スタッフ自身が映像を目にする環境でも直接的なリラクゼーション効果が期待できます。

なぜ「150時間」の映像量なのか

同じ映像の繰り返しは「馴化」により効果が低下します。季節・時間帯の自動切替で毎日異なる風景を提供し、「あら、ここ知ってる」という会話のきっかけを生み続けます。

映像品質への技術的こだわり →

参考文献

本ページで引用した論文の一覧です。

Choe, K. et al. (2025). Effectiveness of Nature-Based Interventions in Reducing Agitation Among Older Adults with Dementia. Healthcare, 13(14), 1727. PMC
Reynolds, L., Rodiek, S., Lininger, M. & McCulley, M.A. (2018). Can a Virtual Nature Experience Reduce Anxiety and Agitation in People With Dementia? J Housing for the Elderly, 32(2), 176-193. Center for Health Design
Wong, K.L.Y., Hung, L., Wang, C., Pan, D., Liao, D., Ren, L.H. & Berndt, A. (2025). The perceived impacts of using dementia-friendly videos to support the psychosocial needs of people with moderate to severe dementia in care settings. DIGITAL HEALTH, 11, 20552076251357490. PMC
Rados, R., Kim, J., Kil, N., Kono, S. & Kensinger, K. (2021). Nature-Based Video with Music for Individuals Experiencing an Episode of Sundown Syndrome. Journal of Long-Term Care, pp. 294–302. JLTC
Chan, S.H. et al. (2021). Nature in virtual reality improves mood and reduces stress: evidence from young adults and senior citizens. Virtual Reality. PMC
van Houwelingen-Snippe, J., Ben Allouch, S. & van Rompay, T.J.L. (2023). Designing digital nature for older adults: A mixed method approach. DIGITAL HEALTH, 9, 20552076231218504. PMC
Otten, K., van Rompay, T.J.L., van 't Klooster, J.W.J.R., Gerritsen, D.L. & Westerhof, G.J. (2024). Exploring small stories of older adults elicited by virtual nature videos with a randomized online survey. DIGITAL HEALTH, 10, 20552076241261886. PMC
Chen, L., Yan, R. & Yu, J. (2025). Virtual nature, real relief. npj Digital Medicine. Nature
Suseno, B. & Hastjarjo, T.D. (2023). The effect of simulated natural environments in VR and 2D video. Frontiers in Psychology. PMC
Ulrich, R.S. (1991). Effects of interior design on wellness. J Health Care Interior Design, 3, 97-109. PubMed
Kaplan, R. & Kaplan, S. (1989). The Experience of Nature. Cambridge University Press.
高山範理・森川岳・山内健太郎・伊藤俊一郎 (2020). 休憩時の木漏れ日照射が高齢者医療施設職員にもたらす心身の回復と職務満足度. ランドスケープ研究(オンライン論文集), 13, 87-93. J-STAGE
Eggert, J., Dye, C.J., Vincent, E. et al. (2015). Effects of viewing a preferred nature image and hearing preferred music on engagement, agitation, and mental status in persons with dementia. SAGE Open Medicine, 3, 2050312115602579. PMC

本ページに記載された研究結果は、それぞれの実験条件下で得られたものであり、すべての環境・対象者に同一の効果を保証するものではありません。多くの研究は短期的な介入効果の測定であり、長期的な持続効果については今後さらなる検証が必要です。また、一部の研究は健常成人やVR環境での実験であり、介護施設の入居者に対する効果を直接的に実証したものではない点にご留意ください。風景帖は医療機器・医薬品ではなく、疾病の治療を目的としたものではありません。

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